+Blindness盲目2+ Scene.2 作:多雨島 ガロン |
「鴨居零児はG高校のラグビー部員だった。彼は以前までスクラムハーフをしていたが、転入してきた巌瀬瑞穂にそのポジションを奪われ、レギュラーを落された。なにもレギュラーを落とされなくても他のポジションでもできるのではないかと思われるが、他はガッチリした体形の男たちが固めていたので、背はあるが、それほど筋肉質ではなかった零児はレギュラーの座を追われてしまったのだ。 彼は幼い日の思い出を振り返ると、病弱だったためあまりろくな事が思い出されない。過去を回想すると病床で寝ていたことばかりが思い浮かんでしまうのだ。その上に早生まれだったため、体も他の同じ学年の少年達よりも小さく、何時も苛められていた。しかし負けず嫌いで向こう気が強かった鴨居は彼らに抵抗し、より一層酷い仕打ちを受けていたのだ。そんな窮地に立った時に、彼には助けてくれる友人がいた。
中学一年の頃、、初秋の金木犀の木の下には散った花が雪の様に積もる。
「鴨居、何で俺に言わねぇんだよ!」 背の高い健康的なこの友人は鴨居の憧れる少年だった。
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「俺が助けてやったのによ!」
九頭龍は喧嘩っぱやくて、やさぐれた少年だったが、義理堅く友人にはとても優しく温かかった。 「余計なお世話だよ!」 九頭龍は笑いながらあきれはてて言った。 「強がるなよ!.....ヴァカじゃねぇ〜の?!」 カラカラと屈託なく笑う九頭龍を横目に、
「うるさいな!あっち行けよっ!」 九頭龍は笑いながら後ろ手に手を振りながら歩き去っていく。 「勝手にしろ!」 [俺はあいつのように強くなりたい!...対等に扱われたいんだよ....!] [兄貴面すんなよな.......。] 鴨居は何時も泣いていた...。 --これは鴨居の原風景だった。-- 彼はひ弱な自分が嫌いで、九頭龍に認めてもらい一心に最初は肉体を鍛えて強化していたが、その路線で対等になるのは無理だと解ると何か他の取り柄を探し出し熱心に勉強をしだした。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ラグビー部の休憩中、部室にドリンクを取りに行った瑞穂は帰り際、すれ違いざまに主将の九頭龍に尻を触られた。これは部員の間では挨拶みたいに行われているものだが、九頭龍と瑞穂にとっては違う意味合いも含まれている。瑞穂はビクリと飛び上がり振り向いて彼を見上げる。
部活が終わって、解散した時に瑞穂は同じ部員の鴨居に呼び止められた。
「おいっ!巌瀬ー!!お前さっき部室に行った時俺の財布取っただろ!!」 「え?何言ってんだよ!」瑞穂は面食らった。 「さっきまで俺の制服の上着に入れてたのに、ネェんだよ!お前が部室に行ってからナ!」
「そんなことするわけねーだろ!」
「前から泥棒が頻発してたのお前がやってたんじゃねーの?!
「ふざけんな!テメッ!!」 瑞穂も勢いに釣られるように鴨居に食って掛かった。
荒くれた部員たち皆の視線が一斉に瑞穂に注がれる。瑞穂は転入してきた新参者なので肩身が狭かった。そして実力があった為だが突然のレギュラー入りに、嫉妬されてもおかしくはない立場だった。
「なんだよ!その顔!生意気なんだヨ!!」
「いい加減にしろ!!」
九頭龍はドスの効いた声でそう叫ぶと、鴨居の方に歩いていき鴨居に語りかけた。
「...それに、お前ちゃんと自分のナップ調べたのか?」 不機嫌そうな九頭龍が自分で調べようと鴨居の鞄に手を掛ける。鴨居は単なる言いがかりをつけて瑞穂に喧嘩を売っていただけだったので、自分の制服ではなく鞄には財布は入っていた。 「もういい!!ナップ返せ!!ざけんな!テメーら!」 彼は自分の財布を瑞穂の鞄に入れておけば良かったと少し後悔したが、後の祭りでそれも遅く、鴨居は九頭龍から鞄を奪うようにもぎ取って周りを罵倒しながら去っていった。
その騒動はうやむやに終わったが、瑞穂は自分が鴨居のポジションに入ったことで鴨居は良くない思いをしていることにこの件で気が付いた。しかし、そんなことに気が付いてもどうと出きるわけでもないので、鴨居のことを「気の毒な奴だナ」と思うことしかできなかった。
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