咄嗟にその行為に気がついた天童は呉の腕を掴んだ。彼は驚いた様子で口を開いた。
「これは何のまねじゃ?」
彼は奇麗な顔の眉間に皺を寄せて、今は険しい顔をしていた。
「おまえは犬みたいなものだ。犬が性器を弄ばれた所で恥かしいなんて想わないだろう。
僕に逆らえば、暴力事件でもでっち上げて君を退部させることも、圧力をかけて空手部を廃部にすることだって出来るんだよ。それでも良いのかい?」
天童は怒りと動揺で震えていた。
たしかに、権力(生徒会)によって、部は潰されかねなかった。彼は自分を退部に追い込むことも可能で、このままでは部も廃部されかねない。
自分は弱い立場であると悟ると同時に
呉の手を掴んだ手が緩みはじめていた・・・
呉はもう一方の手で天童のブラウスの三つ程開いたボタンの懐に指を引っ掛け中を覗き込む。
動揺を抑えられない天童は小さく震えるていた。それは暴力で抑えられるという事への敗北感ではなく権力で抑えられている。という自分に対する恥辱感で精神的に疲弊し小動物のように震えていたのだ。
天童の肌は透明感のある白さで、--日に焼けると赤くなるだけで冬場には白く戻るタイプで--首筋には繊細な産毛がある。脈打つきめの細かい肌の首筋から鎖骨、胸。
襟元の隙間から覗く胸は鍛えられて形よく盛り上がり、頂点の赤みがかった桜色の乳首は艶かしく隆起し、ピアスが光っていた。
「こっコレは何だ?!」
呉は解りきったことを口走った。処罰の対象になるものを発見した彼は内心喜ぶとともに、その瑞々しい乳頭に穿たれた銀色の輪状の物に、舌を絡ませて弄び、吸い付き・・甘噛みすると天童はどんな反応をするのかというのが気になってしょうがなかった。そしてそれを想像すると下半身に血が集まり、どうにもならない程にマラが堅くなってしまった。
この呉にとってのサディスティックなひと時は(力はあるが権力にあがなえない者への夢のような嗜虐の時間)は下品な男(呉にとってはそう思えた)の乱入で終焉を迎えた。
天童を執拗に追いかけているストーカーのような大妻が勝手に部屋に突入してきたのだった。
「遅いじゃねーか!天童なにしてんだ?!」
扉を蹴破りでもしたのではないかという勢いで彼は部屋に入ってきた。無神経そうな横柄な態度でその様は突入してきたという言葉がふさわしい。その音に驚いた二人は入り口の方へ振り返った。
「............」
「なにやってんだ?お前ら?・・・」
鳩に豆鉄砲を食らわしたような呆然とした顔の大妻は・・・
生足を晒し、ブラウスによって下着を着ているか解らないような格好をしながら会長の前に苦悶の表情でひざまずく天童を見て、怒りの感情が湧きあがり衝動的にその治まらない激情を呉にぶつけた。
野生の獣のような勢いで大妻は呉に猛進し胸ぐらをつかんで壁にぶつけ左の片腕だけで悠々とその男を持ち上げた。
「テメェ!なにしてんだ!オラァ!」
大妻は野太い雄叫びを上げた。
会長はメガネを衝撃でずらし眉毛を不愉快そうに寄せながら、呆れたように言い放った。
「手をはなしたまえ」
その飄々とした態度に大妻の右手の拳に力が込められる。
その二人の様子に動揺したのは天童だった。
「やめんか!ボケェ!わしが我慢しとるんじゃ!オマエが手を出せば、全てが無駄になるんじゃ!」
「君がボンクラ部の副部長の大妻か・・」
呉は大妻の片手によって持ち上げられながら弱い立場にあるにも関わらず、蔑むような眼差しで大妻を見下ろしている。
「わしも腸が煮えくり返っておるが、コイツの一言でわしらの部は廃部になりかねん」
「部費もコイツのサジ加減一つで・・・文書を書き換えれば無くなりかねんし、わしら部員の不始末をでっち上げれば部はなんとでもなるんじゃ。先公もわしらの言うことよりもこいつらの言葉を信じるじゃろう。・・・だから手を出すな!」
天童は大妻を懸命に制していた。
「・・・・・」
--
天童のオヤジはここの学校に空手部の顧問の師範として時々来る。天童は部のことを一番に考えている。--
それを思うと大妻は胸が傷んだ。そして、それをかさに掛けて天童を攻める呉に猛烈に腹がたっていた。しかしこの場は手を引くしかなかった。
「俺が天童の変わりに何でもやってやる!天童にこんなことさせんじゃねェ!」
「今度こんなことがあったら只じゃすまねェーからな!」
大妻は鬼のような形相をしながら持ち前のドスの効いた声を荒げ会長を睨み叫んでいた。その様子に呉も多少怯んではいたが、その怯えはひた隠しに隠された。
「今日はもういい。帰れ」
呉は二人を促し、天童を開放した。
天童は服を纏い大妻と共に生徒会室を後にしたが、暫く二人は無言だった。
「大妻・・スマンな・・。おぬしに心配掛けて・・わしは今まで男としてのプライドを優先させてきた・・・」
「なのにわしの部が引き合いに出されるとわしのプライドは脆い物じゃった。」
「あんなことは今までに無かった。しかし・・・わしはどうも部が好きらしい・・・。こんなにしてまでも守りたい物があったとは・・・わしも自分に驚いたわ!」
大妻は健気な天童に胸を打たれた・・・。そしてそのことにかなり共感するものがあった。
---しかし、、その守りてェものが部じゃなくて俺だったら--
と密かに思っていたが、他の何者でもなく空手であったことに胸が締め付けられた・・・。
呉会長は天童のことを大妻に脅された後も時々密かに虐待していたが、自分が天童のことを何とも言い難い感情をもっていることにおのずから気が付くことは無かった。
天童への陵辱じみた色めかしい悪戯は日に日にエスカレートしていき、そんな天童を自分の物にしたいという・・支配したいという欲望に次第にかられていっていたが、その感情の果てに行き着く所はどこなのかはどこなのかは解らなかった。
--数日後の放課後--
大妻は廊下の窓辺に腕を組みながら寄りかかり人を待つような様子で時折おっくうな仕草を見せながら佇んでいた。片手を顎のあたりに持っていき、優雅な指使いで唇を撫でながら物憂げに俯く。
彼の眼は鋭く優雅という表現には見合わなかったが、動くたびに軋むような筋肉や若さによってだけではない内面からの覇気によって輝く肌は彼の仕草の一つ一つに過度ではない優美な趣を与えていた。
彼は踵を掃き潰した室内用の館履きを履いている。(この高校には上履きと館履きがあり館履きは紐靴で体育館や室内の運動をするときに履く事を強制されている履物。)
大きな体に大きめの学ランをゆったりと着ており、はだけた学ランの下のブラウスを通して見える胸は厚く、シャツがはちきれそうだった。
彼は目の前を通り過ぎる輩たちを伏し目がちに眼で追った。その視線にはえもいわれぬ色気がったが、大抵の輩たちはその色気に気がつかず恐怖を感じ、眼が会うと「なに見てんだヨ!」「見せもんじゃねーぞ!コラ!」などという言葉がいつ口をついて出てくるのでは無いかと怯えながら足早に去っていった。しかし彼にはそんな気は無かった。無意識のうちに彼の眼は男達の尻を追ったり股ぐらを追ったりしていただけで、この学校のやさぐれ達も彼にとっては可愛い存在としか思えていないのだった。
出会い頭に吠え合い喧嘩するようなならず者の溜まり場のような校内において彼の強靭な肉体から発する近寄りがたい、強さから滲み出ている雰囲気はその場を支配し、その付近に近寄るやさぐれ野郎達は野良犬のように鼻を鳴らし媚びながら去っていく。
天童も同じようなオーラを持っていた。それは孤独でどこか物悲しいような孤高な存在のオーラだ。
彼は手に触れるものをことごとく壊すように全て犯してきた。大妻は手にかけてきた男達のことも、ことに至ると愛してしまうのだが、天童のことだけは特別にそれらの有象無象以上に愛していた。その思いは純愛であると信じていた・・・・・。
彼はそんな天童を権力でものにしようとしていた呉がねたましく思われそれを許すことが出来ずにいたのだ。大妻は呉の抱く感情をいち早く察知していた。
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