『Infinite Sweet Pain』
+刺青+
Scene.2

 

 
 

乱暴で粗野な印象のある九頭龍が、不意に優雅な指の動きで着物の襟元を直す仕草を見せる。そんな和装の伊達男ぶりに感嘆した。

「凄い!本格的だな!・・」

「神社の参堂には屋台もでてるし、街に行けばクラブもある。地下鉄も動いてるから朝まで遊べるぜ!」九頭龍は得意げに言った。

巌瀬は心が躍った。バイクで走るのも面白いけど、着物で九頭龍のように洒落て街で遊ぶのも楽しそうに思えた。・・九頭龍とだったら何をしても楽しい。
彼のように着物を着て・・・

「俺も高雄みたいに着物を着たい・・な・・」と巌瀬は思わず小さい声でつぶやいた。

九頭龍は笑いながら、言った。
「親父の着物があるから着てみるか?」
「俺のと同じだぜ。着せてやるよ」

巌瀬の顔がほころんだ。
「着物を持ってくるから、俺の部屋で待ってな」

巌瀬は九頭龍の部屋に初めて入った。九頭龍はすぐに出ていってしまったので一人になっていた・・冷静になると好奇心が沸いてきた。・・・九頭龍のことをいつも知りたいと思っていたので、彼の部屋を探索したいと思ってしまう。
そこは、簡素で何もないが、黒で統一された洒落た部屋だった。遮光カーテンに黒いベットカバー。マンションに作り付けのクローゼットと大きな姿見の鏡。
鏡を覗き込むとスカジャンとジーパンを穿いた自分が映っていた。
九頭龍が入ってくると、クローゼットを空け着物を掛けた。
「着なれてないと着れないだろ?俺が手伝ってやるよ。」

巌瀬はジャンパーを脱ぎ、ベットに投げる。
黒いブラウスのボタンを外し上半身裸になり、姿見には褐色の肌の巌瀬が映っている。程よく鍛えられた筋肉質の細身の体。巌瀬はジーパンを脱ぎ、ビキニになった。彼はジーパンに浮き出るラインを気にしてたので何時もトランクスではなくてビキニを愛用していた。

「これをつけろ」
九頭龍は褌を手渡した。

「え?下着も??」巌瀬は目が点になった。
「・・どうせ見えねーし?不便だから遠慮するよ」

「着物の下には褌を締めるもんだぜ!下着にこそ力を入れるものなんだ!!」
「和の心を知った日本人であれば当然のことだ!」

「え?!」
巌瀬はあっけにとられていたが・・
小さい声でぼやいた。
「・・家の親父が着物を着ていたときはステテコみたいなのを着てたけどな・・」

九頭龍が憤慨している。
「お前の親父は日本人じゃねえ!日本人の魂を知らねえんだ!」

巌瀬の言葉をつっぱねた。

傾く(かぶく)為、伊達でいなせな洒落を決め込むためには寒さもこらえなければならないのだな・・と巌瀬は納得した。
彼はしぶしぶとビキニを下ろし褌を腰にあてた・・。
それは祭りで穿いて以来の経験だった。

渡されたのは前垂れのない六尺で、結ぶのは多少難しいものだった。

褌を腰にあて後ろで絡めて結ぼうとしていると、九頭龍が結び始めてくれた。

「お前、締め方もしらねーのか?こうするんだ」彼は余裕の表情で手伝いだした。

鏡には裸の巌瀬と着付けている九頭龍が映っている。背の高い九頭龍はテキパキと作業をこなしている。着物を着て、凛々しく格好良い。伏し目がちに作業をしている様子が色っぽく、肩越しに彼の息使いを感じながら着物が裸の背中にあたり、巌瀬は胸が弾んだ。

・・彼は勃起してしまっていた・・。

心にもないことだったが・・褌を締めるのに股間の布を引っ張られたり、弄られているのがいけなかったようだった。その上に鏡で九頭龍をみていると限界に近づいてくる。
巌瀬はそんな姿をさとられないように隠そうと手を動かした。腕を前に持ってこようとしたのだが・・
気が付くと手首に紐が絡まっている。

「え?!?!」

九頭龍がその紐をひっぱり腕がギリギリと後ろ手に締め上げられた!!

「な・・なにすんだ!!」

巌瀬は縛られていた。
手を縛っている紐は褌に結び付けられており、動かすと股間が痛い。

九頭龍がしたり顔で笑っている。
驚いている巌瀬を無理やり腕に抱えこみ、ベットに運んで座らせた・・・。

「ここは俺の巣みてーなもんなのに、よくお前来たよな!!」

九頭龍はニヤリと笑いながら後ろ手に縛られた巌瀬を舐めるように眺めた。
巌瀬の整った奇麗な顔から・・ほどよく張った胸筋、艶かしい乳首・・割れた腹筋・・腰骨のあたりを眺め・・そして注意が股間のイチモツのふくらみ一点に注がれている。
それに気が付いた巌瀬は、隠すように足を閉じた。

九頭龍はベットの巌瀬を見下ろしていたが、一歩下がり背中を向けて着物を襟元から腰まで脱ぎ下ろし背中を見せた。

・・するとそこには、見事な龍の刺青が施されていた。

「え??!」
「何時の間に彫ったんだ!!」

巌瀬は驚いた。
それは色合いの美しい頭の九つある龍の彫り物で・・。九頭龍のような鍛えられた肉体を持った美貌の野郎の背中にある刺青というのは息を飲むほどのものだった。
巌瀬は言葉を失った。

*かつて刺青は江戸時代に囚人が咎を受けた証として腕に彫られるという習慣があった。刑期を終えた囚人達はその証を隠す為に、刺青の上に流麗な絵を掘り込んだ。そんなならず者達が美麗な刺青を競って彫りはじめ刺青は発達した。
洒落た粋な刺青というものの日陰者的な危うい陰りのイメージが九頭龍の美しさを増させている。*

九頭龍は肩越しにふり返り得意そうな顔でチラリと見ながら言った。

「これはペイントだ」
「ボディアートをやってる友達がいて、俺の背中に描きたいって言ってたから、さっき描いてもらったんだ。」
「お前に見せる為に描いて貰ったんだぜ!それなのに・・」
「お前の頭の中はアレのことばっかり考えてやがる。・・ずっとおっ勃たせてヨ!」

「・・!たっ・・!!勃ってねーよ!」

巌瀬は眉を寄せて足を堅く閉じてうずくまり、言いがかりをつけられたことで不機嫌になったような顔で怒っている。九頭龍はベットに乗ると巌瀬の足を無理やり広げようとした。

2003/12/26  
 
 

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**モドル**