『Infinite Sweet Pain』
+恋スル虜2+
Scene.1

作:多雨島 ガロン

 
その日の部活は
部員たちが二手に分かれての簡単な練習試合と、そのあとは数組に分かれてのパス練習というメニューだった。
このパス練習というのは走りながらのもので、タックルありのかなりハードなものだ。そしてその後にはキックパスなどの練習があった。
とりわけ力を入れていたのは、一ヶ月ぶりにメンバーに復活した九頭龍を入れての練習で、スクラムからのセットプレーなどの練習などである。

顧問の大倉という教師が皆に向かって九頭龍のことを紹介した。
大倉という男は脳まで筋肉のような体育教師で鬼瓦のような顔をし、話方も粗野で乱暴だったが、部自体もガラが悪かったので部は上手くまとまっていた。
鬼瓦のような顔の男は九頭龍をみなの前に出し、罵声を浴びせるような声で叫んだ。
「お前らー!!コイツを新しい新レギュラーにする!こいつはウチの柱だからな!!
停学していたからって、部を辞めて貰うわけにはいかね―んだ!!ポジションは勿論10だ!いいな!!」
九頭龍はふてぶてしく腕を組みながらウザそうに厳つくよそを見ている。特に反省の色がある風でもなく。

「こいつは停学してミソギを済ませた!だからもうキレーな体ッちうわけだ!」
「言うことはそれだけだ!!解ったな!野郎ども!」
まるで、スタンリーキューブリックの映画{フルメタルジャケット}の鬼軍曹のように下品なこの男は、練習開始の合図に勝ち鬨のような雄たけびをあげた。
ざわざわと部員たちはざわめいたが、男たちは強力なメンバーの復帰で歓喜に浸っている。
彼らは部員たちの中に歩いてくる九頭龍のシリを叩いたり肩を抱いたりと、暫く会っていなかった兄弟に会ったように、皆で喜びを分かち合うのだった。

ラグビー部....
牢獄のような荒んだG高校の汚い部室で日々残飯を食いながら奴隷のように鞭で調教されているゴロツキども達で構成されている部。
強靭な男たちは手なずけたられたサーカスの野獣さながらに、チームプレーで指令通りに動く。それらの指令は10番を背負う九頭龍から発せられた。
決して他人の指示では動かないような荒くれた猛者たちは、只一人、九頭龍の指令だけで動くのだ。
九頭龍がチームを指揮する姿は、鍛えられた無頼達をあごで動かす無敵艦隊の司令官のようなオーラを放っていた。
九頭龍は10番で花形のポジションにいた。スクラムから8番が蹴りだしたボールを9番のスクラムハーフ(瑞穂のポジション)が拾い、それを10番のスタンドオフ(九頭龍)が持ちセットプレーでウイングに流す。他にも形はあるが、10番は試合の流れを見極めるキャプテンのような位置なのだった。

試合後に九頭龍を含めた小さな班にいた瑞穂は、ぼんやりとしていた。模擬試合の練習のあとはパス練習だったのだが、九頭龍から貰ったパスを落しそうになるし、彼は心ここにあらずな状態が続いていた。
ラグビーのユニフォームをぴっちりと着ている九頭龍は走っている姿も絵になり、パスも巧く取りやすい位置に投げてくる。彼はよほど巧いのだろうとパスだけで解った。
キックの練習もしていたが、九頭龍のドロップキックのパス(ボールをいったんバウンドさせて跳ね返った瞬間に蹴るパス)は正確で、とても美しいものだった。
汗で濡れたシャツは肌に張り付き、筋肉が触れたくなる程の盛り上がりを見せている。
ラグビーをする猛者たちに混じって走る彼のあの肩、あの横顔、あのうなじ。しなやかで頑丈な体。そして臀。
瑞穂は自分が何を考えているのか解らなかった。
九頭龍は自分を見ても無反応で、眉一つ動かさない。
パスの練習も流れ作業のような態度だったので、昨日の人物とは人違いのように思えてきていた。昨日の悪夢以来自分が変わってしまったのかも知れない...。あの昨日の男とは別人の九頭龍という男に自分は一目惚れしてしまっているだけなのかも知れないと....。
九頭龍はきっと、自分の妙な態度に{変な奴だと思っているではないか?}という思いさえ浮かんできた。
少しの休憩があり皆が水を飲んでいる時に自分も顔を洗おうと思いたった瑞穂は水道に行くことにした。
それと行き来するように往来の向こうから、九頭龍がこちらに歩いてくる。口には赤紫のネムの花を銜えていた。
男らしい九頭龍が花とは、意外な光景だ。だがそれが不思議と似合っている。爽やかな夕方の風が髪を揺らし花も風に揺れる。
ネムノキは,夕方に花が咲く。その時間になると,葉を閉じあわせて(睡眠運動というのだが)眠りにつく。夜明けとともに葉が開き,花はしぼんでしまう。はかない一日花。
花弁のように見える所は全て雄しべで、やわらかい刷毛を思わせる房状の花が咲いたように見えている。彼は花の性器を口に銜えているのだ。それも雄しべを!!!....
瑞穂は呆然としながら、花とはいえ雄の性器を口に銜えている九頭龍の姿に魅入っていた。
九頭龍は腰に両手をおき、両の親指をユニフォームのパンツのウエストに入れて、堂々とした風格で一歩一歩近づいてくる。....すれ違う時に彼はこちらを一瞥したが、瑞穂は目をそらした。彼には品があった。雄の魅力を放出し肩で風をきって歩く。...夕方の木漏れ日の中で....。

「おい!九頭龍!ちょっと来い!次の予選の試合のことで話がある!」
「お前らも今日は帰って良いゾ!!」
「解散ーん!!」
顧問の大倉が奴隷たちに解散の号令をかけ、九頭龍に声を掛けて彼と共に去っていった。
部員たちはワイワイと皆部室に戻っていったが、瑞穂だけは暫くその場に半ば放心状態で佇んでいた。近くの階段に腰を下ろし、物思いに耽りつつ.....どれくらいたっただろうか....。
部員の友人がやって来て話し掛けてきた。
「巌瀬??お前何してんの?」
「別に...」
「俺、先に帰るからサ...鍵、オッサン(大倉)に渡しといてくれよ!」
「ホレッ」
「じゃあな!お先ーーーッ!!」
怒涛のように要件を言って軽快に走り去っていく友人を見送り、彼はゆっくりと腰を上げた。
そして気がつくとグラウンドには誰もいなくなっていた。
傾いた夕日の差し込む部室にも、もう誰もいない。
鍵を預かった彼は、部室の戸締りをして帰る役割を担っていた。汗臭く汚い部室の窓を瑞穂は閉めだした。
部室には部活の後の泥と汗にまみれた体を流せるように薄汚れたシャワー室があり、瑞穂はひと浴びしようと服を脱ぎタオルを肩にのせシャワー室に入っていった。
そこは八つ程シャワーがあるだけのトイレのような汚い所で、それらは剥き出しにシャワーがあるだけで一つ一つ囲うものなどない、古く安い造りをしていた。
ふと見ると、誰かがシャワーを浴びているのに気がついた。
{ああ、まだ誰かいたんだな....}
頭を洗っている長身の男。引き締った均整のとれた体は一目で九頭龍だと解った。小麦色の体に水しぶきがあたり、はちきれんほどの若い肌は水滴を弾いている。瑞穂は見とれてしまった.....。とりわけ臀部に。筋肉で締まった臀は荒々しく男らしく、ナチスの政治思想のプロパガンダポスターでみる肉体美のような...彫刻のような臀をしていた。
呆然としていた瑞穂に気がついたのか、九頭龍は振り返った。
瑞穂は驚いたが、瑞穂の眼は九頭龍のイチモツに釘づけになっていた。一瞬、時間が止まり二人の間には沈黙が流れていた。
「.....」
九頭龍の鍛えられた無駄のない胸筋。筋肉で六つに割れている腹筋。わき腹、腰骨、叢の中にある剥けたシンボル...
瑞穂は呼吸すら止まっていた。頭の中は真っ白で赤面してしまい気がつくと勃起していた。
九頭龍は隠す風でもなく肩に自分の手をのせ、その手に頬をのせて首をかしげながら見下ろし無表情に言葉を発した。
「気にすんなよ、良くあることだ。」
瑞穂は九頭龍と目が合い、気まずくなって奥の方のシャワーにそそくさと向かった。
九頭龍はまた洗髪作業に戻っていた。

---{やっぱり人違いじゃないか!!オレ、どうかしてるよナ!!}
それよりなんでオレは、男の体を見てこんなことになってんだよ!!おかしーよな!
九頭龍だってそりゃ驚くよ!-----

九頭龍はシャワーを終え、シャワー室を出て行った。
瑞穂は一人でシャワーにうたれながら目を瞑り自分のことを責めていた。

----明日から九頭龍にどんな顔して会えば良いんだよ!
{うわーーーー!オレってはずかしーーーーっ!!!}
オレが変態ぢゃねーか!あいつを変な眼で見て....あいつ顔色変えてないけど内心動揺してるよナ!------

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**モドル**